焦げてるチキン

アニメ感想とか書評とか

お互い様

ううむ。
Twitterで古典部新作の存在を知り、いそいそと野生時代買ってきて読みましたよ。長い休日。

前情報一切なく読み始めてえっほうたるの過去がついに明らかに!?みたいなノリで読み進めて最後まで読んでしまいました。…なんか色々と衝撃でした。

夏休みの読書感想文を書くために氷菓を手にとってから早8年ぐらい経つわけですが、これまで古典部シリーズに対して持ってたイメージがまるっきり180度変わっちゃいました。

読み終わった時に、これはたいへんなことになったぞ、おいおい聞いてないぜ米澤先生、と思うくらいには。


直接的には出たー今流行りのフレネミー奴~とか色々思うところはあるとして、それはひとまず後においといて。古典部シリーズはよくラノベっぽいって言われるし、アニメを見てから特にそういう風に思ってたけどもう間違ってもラノベとは呼べなくなってしまったのが大きかった。

今まで奉太郎が典型的なラノベのやれやれ系キャラと言われるゆえんが「省エネ主義」なんだけど、ラノベとしてはその主義には確固たる理由があっちゃダメなんだよ。物語の進行に必要な、記号的なキャラ付け以上の意味がないからこそ「ラノベっぽい」特徴だった。それこそ「人間強度が下がる」ぐらいの第三者からしたらハァ?て言いたくなるような荒唐無稽な理由しか存在しなかった。

今回の新作で出た奉太郎の理由は生々しすぎて、「省エネ主義」っていう記号的な、いわばお約束だったモットーまで急に息を吹き込まれたみたいになって、おおげさに言えばグロテスクに感じられた。


それでこれは個人的な話なんだけれど、今回の要領のいい人間が他の人間をカモにしてる、って話は最近特に共感することが多かったから奉太郎がかなしいって言ったところでもううわぁってなっちゃって。
「お互い様だから手助けしようと思っても、相手もお互い様だと思ってくれるとは限らない」ってすごい言葉だなぁ、すごくわかるんだけど悲しすぎる…
もうこれから彼が「やるべきことは手短に」って言っても笑って見られない自信があるわ。


たぶんこれは小市民にも言えることで、今は小鳩くんはうっすら言及はされてるけど、二人が小市民を目指すことになった直接のきっかけは描写されてない。
だからこそ「何やってんだこいつら、厨二病じゃん」って笑い飛ばす余地があるけど、この二人の過去が明かされたらもう笑ってられないと思うよ。


本人たちは自意識過剰だって思ってるみたいだけど、でもそれどころの話じゃないじゃん!若気の至りとかプライドとかそういう問題じゃないじゃん!てなりそう。
まぁ小市民の二人はその点結構人間としてはクズな部分があるんでダメージは低そうだけど。もしかしてそこまで計算してるのか作者…


しかし小市民はよくても古典部はよくない!と思ってしまう。だってあの奉太郎だから笑
今までアニメの奉太郎は要所要所で被害者感が滲み出てたけど、原作ほうたるはもうちょいクールで上から目線で周りに利用されても応えてないって感じがしたんだけど。
ここへ来て一気に被害者になってしまった感じがする…本人が「子供が拗ねてるうちに引っ込みがつかなくなっただけ」とか弁解してるのが余計に…!


あとは田中さん(仮名)が普段はものすごく大人しいっていうのがすごく怖かったよね。最近こういう一見無害な悪意キャラみたいなの流行ってる気がするんだけど。また物語シリーズの話になっちゃうけど撫子はもう確実に加害者側だと思ってる。


それから今後注目なのは千反田さんの動向ですね。てっきり奉太郎に世話になりまくってる自分を反省しちゃうかと心配したのですが…前にちらっとそんなこと言ってたし。

そんなことになったら雛からこっち遠ざかり続けている栄光のフラグへの道が更に遠くなる!と思ってたけど、まぁ杞憂でしたwwまさに大天使チタンダエル。


今回の話の中だけでも聞いてしまったからには仕方ないってだけで掃除を手伝ったり、他にも連峰とかシリーズ全体で奉太郎が根本的には全く変わってないことが証明されているわけですが、それを言い当ててるえるがそんな奉太郎を肯定する役回りなのかなぁ。

たぶん鏡には映らないの最後で謝った摩耶花とか、掃除のお礼にお茶とお菓子を出してくれるだろうかほさんとか、基本的に今奉太郎の周りにいる人たちも同じ役割なんだろうけど。


そう考えるとなんというか、夏目友人帳的な、主人公のリハビリ的な物語でもあるのかも…とか考えてしまうともう古典部シリーズに対する読み方がこれまでとは全然変わっちゃうわけですよ。リハビリっていうマイナスからのスタートじゃなくて、成長と考えれば、まえからよねぽはビルドゥングスロマンとか言ってるからテーマは最初からずっと変わってないのかもしれないけど。


それにしても、よねぽ作品の醍醐味は最後にそれまで積み重ねてきた文章の意味合いを全部ひっくり返されてしまうことにあると思うのですが、それを一冊の本ではなくシリーズ全体に対して行うとは…よねぽ恐るべし。また氷菓から読み直さないと

小説 野性時代 第120号 (KADOKAWA文芸MOOK 122)

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